謎技術を調べてみた vol.02 海底ケーブル
Mysterious technologies vol.02
Learn hints to solve problems from breakthroughs of other fields.
日常の生活の中で、ごく身近に存在している、よく考えたらどうやってるんだろうっていう謎技術。
そんな謎技術を支えるテクノロジーから、現在の仕事における課題を解くためのヒントを探るシリーズ、第2回目です。
海底ケーブル -Submarine cables-
今のネット社会を支える影の功労者、それが海底ケーブル。 大陸間を超える通信の手段としては、海底ケーブルと衛星通信が主にあるけれど、その大半は海底ケーブルの方だ。 (一昔前は、大陸間ネット通信の手段として、衛星通信がかなり使われていたらしいけど、通信容量の大きさと安定性から、今のシェアはほとんど海底ケーブルらしい)
だだっ広い太平洋や大西洋の下を、延々と光ファイバが伸びているなんて、本当にそうなの? って思っちゃうくらいすごい話だ。 まぁ、資金が潤沢にあるからできるってのはあるけど、それを差し置いても技術的にもすごい。
世界中でどれくらい海底ケーブルが敷かれているか、という図は、きっと見たことのある人も多いだろう。
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この画像は、以下のリンクからキャプチャしたものなので、そちらも確かめてほしい。
日本企業では、 NEC が海底ケーブル事業を行っているらしく、情報をたくさんネットに公開してくれている。
ケーブル
海底ケーブルに使うケーブルについては、過去には同軸ケーブル、今はもっぱら光ファイバケーブルが用いられている。 1990年代頃に、光ファイバを媒体とした、波長分割多重 (WDM) を用いた伝送が実用化されて、飛躍的に転送容量が伸びたとのこと。 現在もさらなる大容量化に向けた技術開発が続けられている。
海底に非常に長期に渡って設置しっぱなしになる海底ケーブルは、あらゆる圧力に耐えなければならない。
- 防水
- 耐圧
- 耐衝撃 (引っ張る、縮める、ねじる、折る)
光ファイバ自体はこうした圧力には非常に弱いから、海底ケーブルでは、光ファイバをまもるために、多重の金属や有機樹脂によるコーティングが行われている。
面白いのが、浅い海域ほど太いケーブル、深い海域ほど細いケーブルを用いるという点。 確かに浅い海域の方が、漁船の網や、サメなどの生物による破損のリスクが大きいというわけだ。 また、大陸間ケーブルの大部分を占める、深い海域で細いケーブルを用いることで、コストメリットもあるわけだ。
あと、それほど長距離になると、信号減衰の問題も気になる。 そんな私のような凡人の疑問ももちろん対処されていて、ケーブル中に一定間隔で存在する海底中継器の中に、光増幅器が入っているとのこと。
設置方法
個人的には、海底ケーブル技術の中で、もっとも驚いたのがこの部分。
"海底ケーブル敷設船" と呼ばれる専用船で敷設(ふせつ)を行うのだが、ケーブル自体は、ものすごい長距離の場合でも、全て工場で生産、接続、テストも完了した状態で、 "1本の長い紐" の状態にして船に積み込むということ。
工場からは、ケーブルをほぐしながら、ベルトコンベアに載せて、船の方に移していく。 船の方では、船倉の中にぐるぐるとトグロを巻く感じで、巻き取って格納していく。 日米間などの非常に長距離 (約 1万 km!?) のケーブルにもなると、この積み込み作業だけで1-2ヶ月程度要するというから驚きだ。
この作業を収録した動画がこちら。
やはり、ケーブルの品質については、工場できちんとした検査を行う必要があるし、また船上での繋ぎこみなどの作業は大変だから、結果として全て工場で作っておいたほうが低リスク・低コストということになるのだろう。
そして、海底ケーブル敷設船は、海を渡りながら、あらかじめ目標としていた海域に向けて、ケーブルを垂らしながら敷設していく。
敷設にあたっては、きちんと海底に沿う形でケーブルを設置するとのこと。 たとえば、日本海溝のような 8,000 m 近い深海であっても、ケーブルを極力弛ませることなく、設置していく。 弛んでいると、ケーブルの自重でケーブルが損傷しやすくなるからだそうだ。
補修方法
頑丈に作られたケーブルとはいえ、大海の荒波に揉まれて(?)、断線するようなこともあるだろう。 問題は、目に見えない海底のケーブルのどこが破損して、またその部分をどうやって補修するかである。 正直検討もつかない。まさに謎技術。
調べると、海底ケーブルの補修は、以下の手順により行われていることが分かった。かなり地道だった。
- 障害位置を特定する
- 障害が起きた場合、電気信号的に陸揚げ局から障害箇所への距離は分かるようになっている
- 海底ケーブルの設置経路も分かっているので、結果的に座標としておおよその位置が特定できる
- GPS 情報を参考に、補修船が向かう
- 補修船からロープを垂らし、ロープ先端につけた切断装置を海底で引きずって、ケーブルを切断する
- 補修船から再度ロープを垂らし、ロープ先端につけたケーブル把持(はじ)装置によって、切断したケーブルの一方を船に引き揚げる
- 引き上げた方に障害点があれば、障害楷書を切断、除去して、切り口を整える
- ケーブルの切断口に水密処理を施し、ムアリング (mooring=係留) ロープとブイを取り付けて、一旦海中に投入する
- 切断したケーブルの、もう一方の端を把持装置によって引き揚げて、先程と同様に障害点の探索と、あれば切断、除去を行う
- こちら側の端に予備ケーブルをジョイントし、それらを海底に敷設しながら、ブイを取り付けた方のケーブルのところまで向かう
- ブイを取り付けたケーブルを再度揚収し、予備ケーブルのもう一端と接続、最終通信疎通試験を陸揚げ局間で行ったあと、残ったケーブルを海中に投入する。
割と短距離・浅い海域の海底ケーブルのものにはなるが、補修の様子も動画が公開されていた。
まとめ
今回の謎技術でも、前回同様、ウルトラ C の解決策は用いられていなくて、かなり地味で地道な努力によって支えられていることが分かった。
素人考えでは、海中で直接動作できるロボのようなもの (海中ドローン?) を作って、設置なり補修なりできたらいいのでは、みたいなアイディアが浮かぶが、現状そうはなっていない。 諸々の条件から明らかに大変な海中での作業は諦め、基本的には、陸上・海上で作業を行う選択を行っているのだと思う。
ということで、今回の教訓は、以下のようになるだろう。
- 遠回りでも、確実に実現可能な手段を選ぶ
また、余談だが、海底ケーブルの話は筆者の職業であるソフトウェアエンジニアの仕事にも直接関係してくるもので、今回のことを調べる中で、最近の動向として GAFA などの大手 IT 企業がこの分野に大きく投資して、自社の保有するデータセンタの拠点間を、専用の海底ケーブルでつないでいるという話があった。そうすると、大陸間の通信に関しては、これら企業の提供するクラウドサービスを利用した方がレスポンスタイムも早くなるし、ビットレートも大きくなるだろうことは想像に難くない。結構、基盤の部分での話にはなるが、 HDD と SSD の特性の違いによって、実装の仕方にも影響が出るみたいなのと違いものを感じた。
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References
- vol7:海の底で世界中がつながってる!深海8千mの最先端ネットワーク、海底ケーブルのヒミツ | なっとく!技術のヒミツ | NEC キッズ・テクノロジー・ワールド | NEC
- 090402.pdf (光海底ケーブルシステムの現状と動向)
- 第2回 世界をつなぐ通信網・海底ケーブル編|意外と知らない!電話・通信の仕組み|法人のお客さま|NTT東日本
- 光海底ケーブルにおける 光ファイバー伝送技術動向
- こんなに細くて大丈夫? 知られざる「海底ケーブル」の世界 (1/2) - ITmedia エンタープライズ
- 光海底ケーブル修理方法 光海底ケーブル修理手順
- Googleが揺動する海底ケーブル市場 ~インターネットの構造変化の震源は海底にあり | InfoComニューズレター
- 光ファイバアンプ(増幅器)の構成や用途とは | ファイバーラボ株式会社
- 120_basic.pdf (光ファイバ増幅器 その原理と適用について)
- 090407.pdf (光海底ケーブルシステム用給電装置)